実家の転倒予防、手すりや段差解消は介護保険で直せる?

親が実家でつまずいたとき、手すりの取り付けや段差解消に介護保険が使えるのか。対象の工事、福祉用具との違い、着工前の申請の流れを、厚生労働省と自治体の情報で整理します。

公開 読了 約7分 執筆 株式会社BabuuTalk

廊下の手すりに手を添えて歩く高齢の母親を、家族が見守っている
目次

この記事の要点

  • 手すりや段差解消は、要支援・要介護の認定があれば介護保険の住宅改修の対象
  • 工事の前に市区町村へ事前申請が条件。先に工事をすると支給されない
  • 置き型の手すりなどは住宅改修ではなく、福祉用具の貸与で対応できる

親から「玄関でつまずいた」「廊下で転びそうになった」と聞くと、離れて暮らす家族は気が気ではありません。手すりをつけたい、段差を何とかしたいと思っても、費用はいくらかかるのか、介護保険は使えるのか、誰に頼めばいいのかが分かりにくいものです。この記事では、介護保険で直せる範囲と、申請で失敗しないための順番を整理します。

結論から言うと、手すりの取り付けや段差解消は、要支援・要介護の認定を受けていれば介護保険の「住宅改修」の対象になります。ただし工事の前に申請することが条件です。この記事は2026年10月時点の情報です。細かな運用は市区町村で違うので、最後は親の住む市区町村で確認してください。

玄関の上がり框で、高齢の母親が壁に手をついて靴を履こうとしている
玄関の上がり框は、転びやすい場所のひとつ。まずは親がどこで困っているかを聞くところから

対象になる工事

介護保険の住宅改修で対象になる工事の種類は、厚生労働大臣の告示で決まっています。厚生労働省告示「厚生労働大臣が定める居宅介護住宅改修費等の支給に係る住宅改修の種類」には、手すりの取り付け、段差の解消、滑りの防止や移動のしやすさのための床・通路面の材料の変更、引き戸などへの扉の取り替え、洋式便器などへの便器の取り替え、と、これらに付帯して必要な工事が並んでいます。

手すり

廊下・玄関・浴室・トイレの壁に取り付ける

例
階段、上がり框、便器の横

段差の解消

敷居や玄関の高さの差をなくす

例
スロープ、敷居の撤去

床材の変更

滑りにくい、移動しやすい床にする

例
滑りにくい床材

扉・便器の取り替え

開け閉めや立ち座りをしやすくする

例
引き戸、洋式便器

介護保険の住宅改修の対象(厚生労働省告示をもとに整理)。付帯する工事も対象になります

対象は「手すりをつけたい」「段差をなくしたい」といった困りごとにつながる工事です。家全体のリフォームや、新築、見た目のための改装は含まれません。対象かどうか迷う工事は、見積もりを取る前に、ケアマネジャーか地域包括支援センターに聞いておくと無駄がありません。

手すりは貸与か工事か

手すりには、工事をして取り付けるものと、置いたり突っ張らせたりして使うものがあります。後者は住宅改修ではなく、介護保険の「福祉用具貸与」で借りられます。厚生労働省「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」の参考資料(令和4年3月31日)には、福祉用具の対象種目として手すりやスロープ、歩行器などが貸与の対象に並んでいます。

同じ資料には、福祉用具の範囲の考え方として「取り付けに住宅改修工事を伴わず、賃貸住宅の居住者でも一般的に利用に支障のないもの」という項目があります。つまり、壁に穴をあけない手すりは貸与、壁に固定する手すりは住宅改修、と分かれます。

住宅改修と福祉用具貸与の違い(厚生労働省の資料をもとに整理)
見るところ 住宅改修福祉用具貸与
手すり 壁や柱に固定する置く・突っ張る
工事 ありなし
向く家 持ち家が中心賃貸でも使いやすい
状態が変わったら 付け替えは別の工事種類を替えやすい

親の身体の状態は、数か月で変わることがあります。貸与なら状態に合わせて種類を替えやすい一方、毎日同じ場所で体を預ける手すりは、壁に固定したほうが安定する場面もあります。どちらが合うかは、家の造りと親の動き方を見て決めるものなので、現地で専門職に見てもらうのが近道です。

申請は着工前に

住宅改修でいちばん多い失敗が、先に工事をしてしまうことです。文京区の住宅改修費(償還払い)の案内には、改修前に区へ申請して工事内容の審査を受けてから着工するよう書かれています。工事が済んでから申請しても、支給の対象にならないという案内です。

流れは、相談、事前申請、着工承認、工事、支給申請の順です。図にすると次のとおりです。

住宅改修の流れを示す図解。相談、事前申請、着工承認、工事、支給申請の5段階
住宅改修の流れ。いちばん大事なのは、着工承認の通知が届いてから工事に入ること

事前申請で用意するもの

自治体によって書式は違いますが、鎌倉市「介護保険住宅改修の手引き」では、事前申請に次のものを求めています。担当のケアマネジャーが、住宅改修が必要な理由を書いた書類をつくります。

  • 見積書: 宛先は本人のフルネーム。材料の品番や長さまで書き、できれば2社以上で比べる
  • 平面図: 動線と改修する場所の位置関係が分かれば、ラフなスケッチでよい
  • 着工前の写真: 撮影日を入れ、手すりの位置にはテープを貼って撮る。段差はメジャーを当てる

工事のあとは、領収書と、着工前と同じ位置・角度から撮った写真を添えて支給申請をします。写真は工事の前にしか撮れないので、見積もりの訪問のときに一緒に撮っておくのがコツです。

廊下で、職人とケアマネジャーと高齢の母親が手すりの位置を一緒に確認している
手すりの高さと位置は、使う本人が実際に手を添えて決める

費用と支払いの方法

住宅改修の支給の対象になる費用は、上限が20万円です。船橋市の住宅改修の案内や、先ほどの文京区の案内にあるとおり、20万円までの工事費に対して、7〜9割が介護保険から支給されます。自己負担は1〜3割で、親の負担割合は介護保険の負担割合証で確認できます。

支払いには2つの方法があります。ひとつは、いったん工事費の全額を事業者に支払ってから、あとで保険給付分を受け取る「償還払い」。もうひとつは、窓口では自己負担分だけを支払う「受領委任払い」です。受領委任払いは、市区町村に登録した事業者でないと使えないため、事業者を決める前に使える方法かを確認しておきましょう。

上限は分けて使える

支給の上限は20万円です(船橋市の案内)。鎌倉市の手引きでは、この上限を何回かに分けて使えるとされています。たとえば先に玄関の手すり、あとで浴室の段差、といった使い方ができます。また、転居した場合や、前回の工事のときより要介護度が3段階以上重くなった場合は、再度使えることがあります。条件は自治体ごとに扱いが違うので、2回目の工事を考えるときは窓口に確認してください。

認定がまだのときは

親がまだ要介護認定を受けていないときは、順番に気をつけます。鎌倉市の手引きでは、認定の申請中でも事前申請はできるとされています。ただし、認定結果が非該当になった場合の工事は、全額自己負担です。

認定の流れや、要支援と要介護の違いは、要支援と要介護、何が違う?申請までの流れで整理しています。最初の相談先に迷うときは、親の介護、最初の相談先はどこ?も参考にしてください。

入院中の親が退院後に使う家を整える場合は、退院してからの動き方を見たほうが、合った改修を考えやすいという案内もあります。退院前に慌てて決めず、退院の見通しが立ったら、病院の相談員やケアマネジャーに家の状況を伝えておくと流れがつくりやすくなります。

申請の前にできる小さな対策

制度を使う前でも、今日からできる対策はあります。大がかりな工事の前に、まず転びやすい原因を減らします。

  • 足元: 電源コードや床に置いた物をどける。玄関マットやラグの端がめくれていないか見る
  • 明るさ: 夜、トイレに行く廊下に足元灯を置く。スイッチは入口の近くにあると手探りで済む
  • 履き物: 室内用のスリッパが脱げやすくないか確認する。かかとのある室内履きに替える方法もある
  • 置き場所: よく使う物は、腰から目の高さに置いて、かがむ・背伸びする動きを減らす

親の話を聞いて、どの場所でつまずいたのかが分かると、手すりが要るのか、段差なのか、照明なのかが見えてきます。帰省できるときは、年末に実家をチェックする流れの中で見ておくのも手です。年末に帰省したら見ておきたい実家のチェックリストに、実家で見ておきたい場所をまとめています。

離れて暮らす家族ができること

離れて暮らしていると、住宅改修の打ち合わせに毎回立ち会うのは難しいかもしれません。それでも、家族ができることはあります。電話やテレビ電話で親から困りごとを聞き、ケアマネジャーや地域包括支援センターにつなぎ、見積もりや工事の日程を共有する。この3つなら、遠くからでも動けます。

BabuuTalkは、実家のタブレットで操作不要のテレビ電話ができるので、親に玄関や廊下の段差を見せてもらいながら話せます。工事の日や、ケアマネジャー訪問の予定は、LINEから書いた一言が実家の掲示板に届くので、親が忘れていないか心配なときの共有に使えます。

BabuuTalkの画面。家族からの伝言がお知らせとして大きく表示されている
実家のタブレットの掲示板に届いた伝言の画面。工事の日程のお知らせにも使えます

Android端末(タブレットや使っていないスマホ)があればアプリは無料で使えます。続けて使うなら、画面が大きく見やすい設定済みのタブレットが向いています。料金や始め方はトップページで案内しています。見守りの全体像は親の見守り、何から始める?機器を選ぶ前にやることもあわせてどうぞ。

夕方のキッチンで、娘がスマホで実家の母に電話をかけている
困りごとを聞く電話から、住宅改修の相談は始まります

今日、実家に電話してみる

最初の一歩は、工事の話ではなく、聞き取りです。今日の電話で「最近、家の中でつまずいたり、ひやっとしたりした?」と、場面を聞いてみてください。玄関、廊下、浴室、トイレ、階段のうち、どこで困っているかが分かれば十分です。

そのうえで、親の認定の状況を確認します。認定を受けていれば担当のケアマネジャーに、まだなら親の住所を担当する地域包括支援センターに、家の困りごとを伝えてください。見積もりを取る前に相談するのが、着工前申請で失敗しないいちばんの近道です。

FAQよくある質問

要介護認定を受けていなくても、住宅改修の費用は出ますか?
介護保険の住宅改修は、要支援または要介護の認定を受けた人が対象です。認定の申請中でも事前申請ができる自治体の手引きがありますが、結果が非該当だった場合の工事費は全額自己負担になります。申請の考え方は、お住まいの市区町村の窓口で確認してください。
工事を先に済ませて、あとから申請してもいいですか?
介護保険の住宅改修は、着工前の事前申請が必要です。先に工事をすると、支給の対象にならないと案内している自治体が多くあります。見積もりを取った段階で、まず申請に進んでください。
住宅改修と福祉用具貸与は、どちらを使えばいいですか?
壁や床に工事をして固定するものは住宅改修、工事をせずに置いたり突っ張ったりして使うものは福祉用具の貸与が目安です。親の身体の状態や家の造りで向き不向きが変わるので、ケアマネジャーや地域包括支援センターに現地で見てもらうと選びやすくなります。
賃貸の実家でも工事できますか?
住宅改修は、被保険者証に書かれた住所の住宅が対象です。賃貸の場合は、工事の前に大家さんや管理会社の了承が要ります。壁に傷をつけたくないときは、工事を伴わない福祉用具の貸与から検討する方法もあります。
親が「まだ要らない」と言うときは、どうすればいいですか?
工事の話を先にせず、「最近、つまずいたことはある?」と場面を聞くところから始めると、親も話しやすくなります。困りごとが具体的に見えてから、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談する流れにすると、押しつけになりません。
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